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全天球カメラが変える風景写真

Post from RICOH THETA. – Spherical Image – RICOH THETA

会津田代山登山道途中にある小さな湿原「小田代」(写真は昨年12月)、田代山頂上湿原(記事はこちら)から500mほどの場所にある。このときはガスが切れて晴れていた。太陽のすぐ右側奥の尾根に、チラッと白く見えているところが山頂の一部。

今回は全天球カメラ、RICOH THETA Sを雪山で使用してみて感じたこと。私は静止画でしか使用していないのでそれが前提で、前半はTHETA Sの使用感、後半は全天球カメラの注意点と可能性について。

露出
自動露出はよく練られた分割測光のようで雪山でも安定している。大抵の場合はそのままでも問題なさそう。

AWB
場の雰囲気を残せてかなり優秀だと思う。周囲を全て写し取るおかげで、逆に普通のカメラのAWBのように、ちょっとしたフレーミングの違いで結果が大きく異なる心配は、あまりしなくて済みそうだ。

しかし…
ここまでは記念撮影レベルでのお話し。夕景や雪山の日陰など、色温度設定の難しい条件で、真面目に記憶色を再現したいと考える人や、作画意図に合わせて画像をコントロールしたい人は、RAW記録の必要性を感じるだろう。

全天球カメラの場合、アウトドアでは高輝度の太陽から暗い日陰まで、周囲のすべてが一枚の画像に写り込むため、画面内の輝度差が大きく、JPEGからでは露出や色の軽い調整でも、調整可能な幅が通常画像よりも実感としてかなり狭い。また調整によっては画像の繋ぎ目に色がつき、浮き出てしまうこともある。先ごろのファームアップでHDRには対応したが、RAW記録にもぜひ対応して欲しい、次機種でもいいからこの点には強く期待したい。

操作性
Wi-Fiを使わないスタンドアロンの状態では全自動のみだから、操作性も何も無し、レリーズボタンを押すだけ。ツライチのレリーズボタンは素手向きで小さく、手袋をしたままではうまく押せない。位置もほぼ親指専用で、人差し指で押したい私にはかなり押しにくい。ケーブルレリーズが無いことが残念。

しかし…
スマホ等とWi-Fi接続しないと設定変更ができないのはやはり不便。デジタルガジェットとして外観デザインにこだわるのもいいが、バッテリー残量やメモリーの状態がいつでも一目で分かるインジケーターが本体にあるといいし、せめてmicroSDXCは使えるようにして欲しい。

外部機器との連携
・現状では基本スマホとしか連携できない。スマホだけでなくPC/Macでの操作やカスタマイズも可能にして欲しい。(Windowsタブレットも含む)

・スマホを使わずにボタンを押すだけの、ケーブル式かワイヤレスの単体レリーズが絶対に欲しい。簡易的でいいからタイマーレリーズやいわゆる 2秒レリーズ機能がついているとなおいい。スマホだけに頼る現状は非常に不便。そもそもスマホアプリのボタンは当然手探りでは位置がわからず、撮影者は常に位置を気にしているから、三脚に据えたり自撮り棒につけて自分も映り込む撮影では、撮影者が下を向いてスマホを凝視していたり、目が泳いでいたりと変な画になりがち(笑)。(※先日本体にセルフタイマー機能が追加されたので、このへんは少しだけ楽になりそう)

・パソコンとの有線接続は、簡単にストレージモードに切り替えられるようにしてほしい。ソフトを通すよりもオリジナルデータを目視で直に扱うほうがトラブルが少ない。ストレージモードで繋ぐことは現在でも可能だが裏技操作が必要でいちいち面倒。

・譲渡や廃棄の場合を考えて、本体のデータを確実に消去する手段をメーカーが提供するか案内したほうがいい。それが面倒ならやはりメモリーカード式にすれば話は簡単。

UI全般
またこれは最近のスマホやタブレットを意識したOSやアプリと同じ傾向だが、アプリもホームページもUIを簡略化しすぎて理解が難しい。このへんに、おもてなし精神が希薄な米国iT業界の影響を感じざるをえない。個人的に「マーケティングが海外志向すぎるのでは?」と思っている。

それと、TwetterかFacebookに登録していないと使えないシステムはダメ。世の中には私のようにSNS嫌いの人間が今も大勢いるので。

※私はけしてこうしたものに弱いわけではなく、前世紀からインターネットをフル活用しているような人ですが、SNSは情報収集にしか使わず、Twetterが「馬○発見器」と言われるようになる前から、いち早くその可能性に気づき、発見されないよう見るだけにしている。

これまで経験したトラブル等

○水平の問題
撮影時にカメラが傾いていたとき、傾きが記録されているので、本来ならビュアー側で補正されるはずなのだが、ある程度以上傾いていると補正しきれない場合があるようだ。公式サンプルにも同じように歪んだものが見られる。また、稀に補正そのものがされない場合もある。

○Wi-Fi
登山途中でWi-Fiがうまく繋がらなくて、リモートレリーズができないときがあった。おそらく周囲数キロにわたって誰もいなかったはずで電波干渉は考えられないし、低温のせいかと思ったが、もっと寒い山頂ではスムーズに繋がったので原因は不明。

○充電
モバイルバッテリーと相性があるらしく、まったく充電できないものもある。よくあるアンペアの問題とも違うようで、充電開始のタイミングに癖があるのかもしれない。旅行等に持って行く前には手持ちのバッテリーとケーブルで事前にテストをしたほうがいい。

○ケース

2THETA Sの付属ケース(シース)は、冗談みたいだがサイズが小さくて本体が入らない。ネット上のレビューでは他ユーザーも同じようで、今の所は別のものが必須だが、市販品の大抵はデザイン優先で、レンズをしっかり保護し、不用意に本体が抜けないが、取り出したいときには簡単に取り出せるという、アウトドアでの使用に耐えそうなものはほぼ見当たらない。今の所100円ショップでも見かけるネオプレイン風の小物ポーチが使い易い。

○PCサイト
現状のtheta360.comはとてもわかりにくい。先にも書いたがデザイン重視で理解しにくく、リンクをたどってでは必要なサポート情報にたどり着けなかったため、Googleで検索したらあっさり出てきた。これも最近の米国メーカーのサポートサイトなどでよくある現象。悪いところまで真似しちゃいけない。

総評と今後の期待
THETAシリーズは画質が向上したSの登場で、旧型までの「新しい玩具」的な立ち位置から、今後は新ジャンルの表現ツールとして、またすでにあるように不動産のバーチャル内見のような産業用途に至るまで、ユーザー先行で進化していくと思う。

最近続々と発表されている競合製品と比べても、「携帯性」と「手持ちで撮り易い」という点で、山岳用途には抜きん出た存在だ。それだけにレリーズが無い、まともなケースが無いなど、残念な部分は早急に改善してほしい。

全天球カメラがまだニッチなツールである以上、メーカーがそうした尖ったユーザーの要望に、いかに丁寧に対応できるかが、競合製品との競争に勝てるかどうかの鍵だ。この点はアクションカムの出だしの頃に似ている。なぜ既存の大手メーカーではなく、GoProがスタンダード化したのかを考えれば今後の道標になると思う。メーカーの努力に期待している。

風景の視点選びと撮影のコツ
写真撮影からフレーミングを無くすということは、ときに写真家の存在意義を毀損しかねない困ったことでもあるのだが、それだけに場の雰囲気をそのまま素直に伝えるには、これ以上のものは今のところ他に無いだろう。

しかし実際に使うと、どこで撮るか? どの高さで撮るか? の違いで、得られる画が下手なフレーミングの違いよりも大きく変わることがわかる。この点で特に自然撮影では写真家の存在意義はこのカメラでも大きい。
遠くの被写体を狭い範囲に作為的に切り取る通常の風景写真では、視点の高さの僅かな変化は、写真を見る側にとっては、あまり意識されない一要素にすぎないが、写真の構成要素がほとんど「視点の場所と高さ」しかない全天球カメラでは、この高さの僅かな違いが全体の印象を大きく左右する。

実際の撮影で注意する点としては、たとえ風景でも見晴らしを良くしようとカメラの位置を頭よりあまり高く上げすぎると、不自然な画像になりやすい。一般的にはやはり人間の視点の高さから大きく離れないほうが、見る側に違和感を感じさせないで済むようだ。

かといって、山岳風景の場合は視点が人間の背丈程度に低いと、どうしても山が上すぼまりになって、肉眼で見るよりも、大きさや山と山の重なりなどがわかりにくくなる。(例:ウメコバ沢の一枚目)この点を根本的に解決するには、向かいの山に登るとか超長い一脚にでも付けるか、はてはドローンで飛ばすとか、物理的に視点を高くする以外に方法は無いかもしれない。ただこれにも視点が高い空間に浮くという違和感がつきまとう。

これがもし風景写真の主流になってしまえばわからないが、そうで無い今は見る側にとっては「空撮」の印象になってしまうだろう。そもそもドローンが思い切り写り込んでしまうし、下には何もない。「地に足がつかない」感覚を、見る側がどう受けとるかは、現状ではまだ未知数な部分がある。

そうした特殊な手段を使わずに、地面に立ったままで、こうしたパースに関係する違和感を少しでも緩和する簡単で実用的な手段としては、少し離れたところに人や誰もが大きさを知っている物体を写しこむことだ。これにより見る側が全体の大きさや距離感を推察しやすくなり、写真から受ける不確定(もしくは不安定)な印象が薄くなるうえに、次に説明するように写真にリアリティを生む。

そのままではリアリティが薄い
全天球カメラを使って、あらためてわかったことがある。
これまでの風景写真では、画面から撮影者の存在は可能なかぎり排除されてきた。しかし実際には、見る側に常識的に「撮影者の視点で撮られている」という前提があったことで、写真そのもののリアリティが補完されていた。

つまりその場所を選び切り取ったのが人間であり、画面の外には撮影者がいると誰もがわかっているから、写真から受ける印象も実際に写っている以上に現実的=リアルに感じるということだ。もう少し簡単に言い換えれば、そこに撮影者の作為があると見る側も承知していることが、写真から生々しさを感じる結果になっていた。

全天球カメラの画像は、従来の写真と比べた場合、フレーミングという大きな作為が無いため、人が陰に隠れて写り込んでいない場合は、見る側にとっての視点は限りなくいわゆる”神の視点”に近づく、そのせいか画面に人や動物のような、生きて動いているものの一切入っていない画像は、リアリティが奇妙なほど薄い。

たとえ生き生きした緑が写っていたとしても、ゴーストタウンを見ているような感覚に陥ることさえある。ところが画面に人(たとえ頭のてっぺんだけでも)が入ることで、同じ風景でも急にリアリティが生まれる。

昨今、巷で全天球カメラを使う人で、一生懸命自分が映らないように影に隠れている人をたまに見かけるが、もし特別な意味が無いのなら、そう無理をしないでいいと思う。むしろ普段は積極的に写りこんだほうがいい。私みたいに写真家なのに撮られるのが苦手な人にはこれは困ったものだけど(笑)。

地味だが非常に大きな革命
こうした意味で、全天球カメラによる風景写真は、撮影者の存在を可能なかぎり排除してきたこれまでの風景写真とはまったく異なり、撮影者が積極的に風景の一部になることが望ましい、常識を変える写真なのかもしれない。

(2016 7月追記: 先日のファームアップでTHETA SがケーブルスイッチCA-3に対応、さすがRICOH。)

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