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フリークライミングは登山の基礎

今年は寒いから松木沢の奥にある某滝が良く凍っているかもしれないので、すでに時期が遅いがとりあえず行ってみた。

松木沢をウメコバ沢の出会いよりさらに奥へ入るとなると、水位次第では渡るのが面倒な川があるのだが、例年と違って今回は全部氷の上を歩いて渡れた。ここでこんな遅い時期にこれだけ川が凍っているのは珍しいというか、私が知っている範囲では初めてだと思う。

平日だがここまで来る途中にはアイスクライミングのパーティも入っていて、手前の氷瀑までの道には結構立派なトレールが残っていた。ここの氷は例年二月も終盤になれば解け始めているので、それほど多くの人が入るわけではないのだが、今年は寒気が次々に来たからだいたい一週間から10日程度シーズン終わりが遅くなりそうで、皆喜んで飛んできているようである(笑)

凍った川と面倒な砂防ダムを越えてお目当ての滝がある沢の出合まで付くと、遠目に見える滝は思った以上にちゃんと氷瀑になっていた。ここは登攀対象になっている他の松木沢沿いの氷瀑とは違って、日中は日の当たる場所にあるから例年なら良い氷は期待できない。見た感じ難度の点でも登攀対象として特に魅力はなさそうなわりに、手前に深い渕があって渡れないわ、最後にデカいチョックストンはあるわで、そもそもそこまで来るのがだいぶ面倒だし、そんなこんなでガイドブックにも載ってないわけで、たぶんほとんど登られていないと思う。私も今回登るほうはほぼ考えていなかった。 が、時間が余ったら手前の氷瀑で遊ぶつもりでギアは持っていた。そんな時に相手が見た感じで登れそうなレベルまで凍っているのを見ると、写真家の自分を押しのけてクライマーの自分が欲を出す。と言ういつものジレンマに陥るわけだ。

そんなわけで、いざ氷瀑の取付きまで出るとなると、手前の複数の渕を超えなければいけない。だが水量も多く完全凍結は期待できないだろうから、簡単には越えられないはずで、夏場は脇の面倒な尾根を巻いて懸垂下降で降りると何かで見た憶えがある。だが松木沢周辺の尾根は実は相当面倒な場所で、出来ればそれは避けたいのが本音だ。そこで「この冬ならうまくすると渡れないだろうか?」と欲を出した。
とりあえず夏なら浅い川床のはずの場所を恐る恐る歩いていくと、最初の深めの渕が出てくる。そこは向かって左側にだけ30cm程度の幅の通路のように細く雪が乗っていたのだが、その雪の上によく見ると穴が一つぽっかりと…

まあ見るからに先行者の踏み抜きかと… やはり同じことを考える物好きは他にもいたのである。しかしそこを通らないと上の渕にはいけないので覚悟してソロリソロリと踏み出すと、「行けた!」と思った瞬間ズブリ! 哀れ左足は膝まで水中に、本体は一緒に落ちないように咄嗟に手前に倒れて、太ったエビ(見たことないが)のようにズリズリと引き下がる…。

何年振りかで新調した”一流だが型遅れセール品のイターリア製冬季用登山靴の優秀な防水ジッパー” のおかげで、水没した左足はラッキーなことにソックスの上を少し濡らした程度で済んだ。
さてこの渕の左右は切れ落ちた壁なのでここをこのまま突破したければ、左の壁を”へつる”しかないのだが、足場はあるものの手で使えるホールドがあるかは未知数だ。夏場に確認した記憶はない、と言うか本当は忘れた。
出来れば雪の乗った不安定な足場のへつりはやりたくなかったので、自分が踏み抜いた氷の穴に試しにストックを突っ込んでみると全然底がない。同じ底がないでも、もうちょっと下にありそうなのと、全然なさそうなのとでは怖さが全然違う、これはたぶん後者だ、うんなんとなく。落ちるとマジでやばいパターンである。

それにそもそも、無理をしてここを超えても、まだもう一つ上の渕が通れるかも分からないわけで、もしここを抜けてしまって上がダメだったら、このへつりは戻れるのだろうか? すでにバンバン日が当たっているからどんどん状況は悪くなる。帰る頃にはへつりに至る部分の氷が緩んでたりして? もしかして「行きはよいよい帰りはなんとか…」のパターンではないかいな?

そう思って機材を背負った写真家の私は諦めて一旦下がったのだが、クライマーの私が目先の欲に勝てず引き返しへつりを決行、体は一つだから行動は欲望の強い方が勝つ。持論だが『クライマーは基本的に欲望に忠実な人達』なのである。

正味3mちょいかそこらの短いへつりを、三脚から登攀道具一式まで入ったザックを背負ったうえに、小型ミラーレスカメラ二台にレンズ四本が入ったカメラバッグをぶら下げたまま緊張して終える。一息ついて「フリークライマーで良かったぁ~」と心底思った次第。

ちなみに『フリークライミングは登山の基礎である』も私の持論だ。たとえ二本足の歩きだろうと、山である以上バランスを崩しやすい場所や鎖場があったりするし、滑りやすい場所ならそれこそどこにでもある。そんな落ちそうな場所で落ちない、こけそうな場所でこけないための技は、実はフリークライミングの中にすべてあるのである。

※写真はちっこくて良くわからんと思うけど、へつった後上流側から。右の岩沿いの雪の手前の穴が先行者の踏み抜いた穴、奥は私の踏み抜いた穴。結局その上の岩の段に乗って壁沿いをへつった。

そんなわけだが、結局その上の渕は越えられそうもなくて、もう一回ここを戻って尾根からの迂回を試みる私であった。あったのだが…(以下お察し)

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