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身近な秘境の自然やらクライミングやら音楽やら映画やら諸々を書くと思います。

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foot私は足の親指が長い。「スパッと切ったような足」と失礼な事をよく言われます。(写真参照)
私が遭難しても足の親指(が妙に長い)か、ふくらはぎ(が妙に太い)で(遺体の身元が)すぐ分かると言った、やはり失礼な奴も確かいたような気がします。

だから暦30年を超えた今でもシューズのサイズ選びは毎回真剣です、特にサイズがとても重要な冬用登山靴やクライミングシューズとなると、試し履き後サイズだけで最低数日は悩みますね、そもそも一回の試し履きで選べた記憶は数回あるかないかでしょうか。しかもそんな時は大抵失敗してるし。

ご存じのようにクライミングシューズのサイズは小さなエッジにも乗れるように、指先が曲がる小さなサイズを選びます。ですが私の場合、親指で丁度良いサイズに合わせると他の指はまだ伸びていてアウトエッジがぜんぜん効きません。左右からの抑えも弱いので、小さいホールドにはいつも親指一本で立つ感じです。

親指が長いと聞いて「ポケットに入るから有利じゃん」とか言う阿呆がたまにいるんですが、まあ試しに素足で箱の端っこに親指一本で乗るのと足指全部乗せられるのを比べてみれば、私の苦労がすぐにわかるはずです。

この一本指打法がいろいろと悪さをしている事は若い頃から分かっていて、当時はいつも足の親指の先を1~1.5cmぐらい手術で切れないかと考えてたのですが、やっちゃうと足先感覚がどうなるかわからないし、そもそもやってくれる医者探しが大変そうだし、何より金がかかるので実現せず……。

いっそ凍傷でうまく落ちてくれないかと思っていたものの、実際に凍傷にやられた知り合いを見ているといろいろと苦労が多そうだし、何より凍傷だと両足が同じ長さになってくれるとは限らない。
「山屋あるある」ですが、凍傷で足が左右違うサイズになってしまうと、高価な登山靴を二足買わないといけないので、「先生、左右同じ長さに切ってくんない?」とか言う人がいるとかいないとか。(一応QOLって事なのか、最近のお医者さんはかなり考慮してくれるみたいですが)

さて本題のサイズ選びの話ですが、結論を言うと足の親指が特出して長い人は、あまりきつすぎないサイズが合っていると思われます。「え? ガッチガチに固めて長さをそろえてしまえば良いんでないの?」と思う方もいるとは思いますが、そうすると長い親指が縮こまってそれ以上全然曲がらない事になってしまいます。そこまで指先を固めてしまうと、引っかけやかき込みが出来ないために、いろいろとハンデになります。それにそんなサイズでは店頭で履くだけは履けても少し登るだけで超痛いですし。

例えば前傾壁では足指をホールドを引っかける事が多いですが、小さすぎるシューズで親指を固めてしまうとそれができなくなり、上に置くだけになります。そうすると後ろに引かれる重心を壁に近づけるために高い身体張力が必要になり、それを支えるために指に負担が集中します。特に背が高い人(重心が壁からより離れる人)は負担が非常に大きく登れない上に故障しやすくなります(つまり私の事ね)。

ちなみに伸びやすいと言われる同じシューズで足の実寸が同程度の数人に話を聞いたところ、私とはEUサイズで最大3サイズ(つまりほぼ18mm!)ほど違いました。

何でこんな事になるかと言うと、シューズの伸びの考慮があります。シューズの伸びは親指が長い人では小さく、そうでない人はよく伸びる傾向があるように思います。それに加えて親指が長い人は親指の窮屈さを考えて初めから大きめのシューズを選ぶ傾向があり、親指が長くない人は伸びを考慮して小さめのサイズを選ぶ傾向があるため、サイズの差が余計に広がると思われます。

想像ですが、親指が長いとシューズを内側から外側に推す力が親指の一本だけなので、伸びにくいのかもしれません。実際「このシューズはすぐぶかぶかになるから」と言われたシューズで本当にぶかぶかになった経験は私は確か一度か二度しかなく、逆に小さめを選んで伸びずに失敗した事は何度もあります。ちなみにそうして選んだ小さなシューズは大抵親指の先のエッジだけがあっという間に無くなって寿命も短いです。一度、花崗岩で使用して二週間で先のゴムがダメになったシューズもありました。ところが次に同じシューズでもサイズを少し大きめにするとかなり持ちました。

これは小さすぎるシューズにするとベタ足とエッジングしかできなくなるため、エッジングでシューズの先の一点だけが集中して減るからです。

つまり私みたいな足の人は「よく伸びる靴だから」と言われて勧められるままに小さめを買うと、それほど伸びなくて登れないうえに、最後まで痛い思いをするのに経済的にも厳しいという踏んだり蹴ったり状態になりかねないって事です。

昔から日本の上手いクライマーには長身の人が少ないですが、足の親指が特に長い人もあまり見かけません。そのせいか自身が結構上手いクライマーだったりする店員さんは、親指が長い人にも小さめを薦めてくる傾向があるので注意してください。この場合参考にできるのはクライミングの実力よりも、同じような足を持つ人の意見です。

「初めてのシューズは誰でも失敗する」クライミング初心者に私がいつも言ってきた事ですが、実際大抵の人はサイズ選びで失敗します。しかもモデルチェンジのたびに足形も伸びも変わってしまうシューズが多いため、フリークライマーは経験を積んでもなおサイズの失敗を何度も繰り返します。シューズのサイズ選びはフリークライマーにとって常に悩みの種なのです。

このネタ、前にやっていたサイトでも書いたかもしれませんが…。

カメラの外装に金属しか選択肢がなかった時代を除いて、銀塩カメラ時代まではエンプラ(エンジニアリングプラスチック)のカメラが多く、キヤノンもニコンも一度は最高機種にまでエンプラ外装を採用しましたが、今はほとんどエントリー機種しかないですね。

転機は2003年発売で比較的安価にもかかわらず外装にマグネシウム合金を使ったEOS10D辺りでしょうか。それから他社も中級機種にまで金属ボディを使うようになりました。

それもこれも機械マニアの男どもに金属ボディを欲しがる人が多かったからだと思いますが、カメラを磨いて愛でる趣味がない私は、何でも金属という今の傾向には反対です。

プラスチックボディは多少の衝撃ではへこまない。まあ凹みは衝撃が加わった証拠で不具合を事前に察知できるという考え方もあるようですが、へこんだおかげで内部部品と干渉して不具合が起きたり、ゆがんだ外装の隙間から水が入るトラブルもあったりします。

私が考えるプラスチックボディの利点は、軽い事と冬の撮影で冷たくならないことです。一部部品の発熱が大きいデジタルカメラでは、これは廃熱の点で微妙なのかもしれませんが、低温に弱いバッテリーには悪くない話ですし、何より手が冷たくならない事は冬の風景撮影では非常にありがたい事です。

冬の風景撮影で気温がマイナスになると、金属ボディのカメラはまるで氷を握っているように冷えてしまい、機種によっては厚いグローブをしていても辛いです。この点他は金属でもグリップ部分がエンプラだったニコンのD750はよく出来ていました。逆にD800は非常に冷えて手持ち撮影はかなり辛かった。

カメラの強度の点でもしっかり作られたエンプラ外装なら中級機種までのペラペラのマグネシウム外装とは差がないか、エンプラのほうがもしかしたら強いかもしれません。エンプラ外装だったEOS D60(60Dではない)は、持っただけで非常に堅牢とわかる作りでした。キヤノンのカメラであんなにガッシリしていたカメラはEOS-1系以外では記憶にありません。

金属外装には防磁効果もありますから電磁波が特別強い環境では有利かもしれません。ですが電磁波でカメラが誤作動するような環境は軍艦のレーダーの真下とかデータセンターのサーバー室とかぐらいしか思い浮かばず、そうした特殊な用途以外ではほとんど無視できるでしょう。そもそも今のカメラの外装はWifiやBluetoothのアンテナを内蔵するために、どこかしら金属でない部分があるものですし。

少なくとも風景撮影に多く使われる機種は、グリップだけでもいいからプラスチック外装を復活させてほしいです。

数々の遠征隊に装備を提供し、日本の山ヤなら知らぬ者はいない登山用品の専門店。
我らの世代には「ICI石井スポーツ」。それがついこの間「Mt.石井スポーツ」に名前が変わったと思ったら、今度はなんとヨドバシカメラの完全子会社に。

2020ICIちなみに私ら山ヤの間での愛称はイシイスポーツではなく大抵「アイシーアイ」でした、「イシイスポーツ」と言う人がいると「あ、この人スキー系だな」と思ったもんです。

昔は他に「IBS石井スポーツ」というそこそこ大きな登山用品店があったので、東京神奈川近辺の山ヤの多くはそっちを「アイビーエス」こっちを「アイシーアイ」と区別していたわけです。だから名前がMt.石井スポーツに変わって「イシイスポーツ」と呼ぶのが今でも違和感ありありで、個人的にはただイシイとだけ呼んでおります。ミートボールみたいですね。

ところでその新生Mt.石井スポーツ。新宿西口店はヨドバシカメラ本店のすぐ側だったので、昔から冗談で「ヨドバシのポイントがアイシーアイで使えたらいいのに」とか言ってたけれど、三十数年言い続けたら本当にそうなってしまいました。自分が怖いです。

その新宿西口店が先日すぐ近くのヨドバシ店舗群の狭間に移転しました(写真は空になった旧店舗)。移転前の店舗は思い出せる限りずっとあそこだったような気がします(昔すぎて記憶が曖昧ですが)。ずいぶん前から重登山やクライミングの用品は影を潜め、スキーとアウトドアアパレルな店舗になっていたのですが、それは新店舗も同じ感じでちょっと残念。

クライミングや登山用品がそこそこ充実している東口ビックロ店の営業が20時までなので、西口新店舗はせっかくヨドバシカメラと同じ22時までやってくれるのだから、もっとそうした用品を増やして欲しいものです。そうすれば出かける夜になって「ゲッ、マジ足りねー!」なんて時にヨドバシドットコムで店舗在庫を調べて店に駆け込んでセーフ!なんて事も可能になるかも。

移転前の旧新宿西口店ですが、ずっと昔は本店ほどではなかったにしろ、登山とクライミング用品が所狭しと並んでいました。冬山シーズン前になると、スーツを着た山岳会の先輩後輩らしい30~40代サラリーマンと20代ウーマンが、冬靴やら金物の道具やらを楽しげに物色していた時代もありました。西新宿方面のオフィスビルからは丁度帰り道になりますし。

散々通って、私のビデオ作品も売ってもらった新大久保本店がなくなったときもそうでしたが、こうして思い出のある場所が消えるのはやはり寂しいものです。これも時代の流れなんですね。

このところ急速に細くなってきたメインロープ。軽いは正義のクライミングでは非常に重要な技術革新ではあるのだが、使う前にちょっと注意を。

二月か三月のアイスクライミングでの話。新調した7.9mmロープをダブルで懸垂下降。数値上は十分この細さにも対応しているはずの某有名ビレイ器を使ったところ、滑って超怖かった(アイスなのでロープが濡れてた&ほぼ新品&そのときの体重が85kgという三十苦もありの……)。

いろいろ小細工をする余裕も無く、両手握力全開でテラスまでなんとか誤魔化し、残りはイタリアンヒッチに変えて降りる。対応の数字だけを見て事前にマッチングのテストをしなかったのも悪いのだが、「いやあ今更だけどイタリアンヒッチって絶妙な制動だわ~」とか思いつつ、ロープが痛むので後で小径ロープに強いギアに買い直した。ちなみにその7.9mmのロープ。もちろんUIAA規格をパスしたダイナミックロープだがかなり柔らかい。柔らかいと取り回しは良いのだが、いかんせん小径で軽い事もあってか、とにかくいろんな物によく引っかかる。下降のためにロープを投げると、途中に引っかかった分が引っ張っても何しても落ちてくれない。(9mmならちょっと振れば落ちるのに)

岩の溝(て言うかシワ?)、超細い小枝、そして苔!。とにかく少し出っ張っていれば何にでも引っかかり、引っ込んでいれば入り込む。半端な傾斜の所では最初の一発で上手く投げ落とさないと大変で、もし途中に草付きがあったら絶対引っかかる事請け合い、軽いから太さで2mmも無いような枝にまで乗っかってしまい、落とそうとして下手に引っ張ると枝に巻き付いて絡んでしまう。
でさっきイタリアンヒッチに救われた。と書いておいて何ですが、その結果のキンクがすさまじかった! いやあ凄い、知恵の輪か!ってぐらい凄かった。ごまかしごまかしあと少しで地面に到着ってところで、最初の件で用心してバックアップに入れたシャントのところでロープがロック。それがまあなんとつま先が地面に着いた瞬間!(笑)。

クライマーなら想像できると思いますが、同じ宙づりでも命に関わりはないものの、見た目がバレリーナでしかも傾斜は出だしが一番キツいから登り返しにくかったり、他に誰かいたら確実に爆笑もの。あと50cmも下がれればいいのにぃー!。でとっても苦労してなんとか解除。たぶん細くてももう少しロープが固かったらここまでにはならなかったんじゃないかとは思うけど、柔らかいほうが使いやすい部分もあるしねぇ……。軽量化マニアで細いロープを考えている方、本番前に手持ちのギアとのマッチングをテストしといたほうがいいッスよ、いやマジで(^^;)。


先週の平日。今季の足尾松木沢アイスクライミングはこれで終了。平日だが近所の低山に行くと思われる日帰りハイカーを二組見かけた。麓はすでに春の様相で、わずか一週間前には干上がってところどころの水たまりとなっていた川は、雪解け水で見事な流れに戻っていた。先週水たまりにうじゃうじゃと閉じ込められていた魚たちはうまく逃げられただろうか? いつも写真を撮りながらで、どうしても登るのか撮るのかどっちつかずになってしまうから、今回はアイスシーズン最終日ということで、撮影はなるだけ控えてアイストレメインにした。

当初今年は例の冷え込みのおかげで一週間ぐらい長く登れるかと思っていたら、三月に入って関東は二日連続で非常に気温の高い日があったためか、通常ならシーズン終わりごろの二月の末でもあれだけ状態が良く太かった松木沢沿いの氷瀑群は、もともと特に太いヤツだけを残してその後一週間で実に綺麗に跡形もなく消えていた。これでは終了は結果的に例年と同じかわずかに早かったかもしれない、平地の気温の変化に簡単に左右されるのは標高の低いアイスゲレンデの宿命ではあるが、今季はさすがに極端だ。

20180312そのまだ残っていた氷瀑もヒョロヒョロで登るには厳しい状態に見えたのだが、それでも探してみればウメコバ出合の近所の、一日中日の当たらない氷瀑が、遠目にわりと良い状態に見えたので、そこで最後の氷を楽しんだ。ただこの氷瀑も下段はなかなか良かったものの、上段は薄くて最上部はすでに浮きはじめていた(360度画像で私の乗ってる辺りね)。

20180310aそれにしても今季の気温の激変はなんなんでしょね。前の週はまだほぼ凍っていたウメコバ出合前の川床も、その後一週間ですっかり元の川に戻っていた。大きいほうの流れは雪解けで水量も多くなっているので、飛び石がうまくつながらず、はだしで渡るはめになり、「イッテー!!」と叫びながら渡ったり、冷たいことまあ。(帰りはザン靴で走って?突破しましたが)

それにしても、まあなんて言うんだか。今季のまとめとしては「体重戻さなきゃ…」につきるか。当社比10kg以上オーバーはいかんですよやっぱり。指の問題をカバーして、何とかクライミングを続けるべくアックスを握りやすいハンドルタイプに換えた。にもかかわらず前腕がばんばんパンプする。

しかも上手くいかない事はこれらだけではなかった。この日午前中のアプローチでは何事もなかったものが、午後になると突然花粉が総攻撃を開始した。冒頭のTHETAの360度画像は帰りの懸垂下降直前で、目は痒いわ、くしゃみ酷いわでボロボロのワタクシです。念のため持ってきていた薬を飲んで、ちょっと効いてもまだそんなザマ。

※ちなみに冒頭の360度フォトをあまりご存じない方向けに解説しますと、懐かしのウルトラマン系ポーズ(?)を決めているわけではなくて、突き出して大きく写っている手にカメラを握ってシャッターを押すと、カメラ本体は写らずにこうなります。こういう場合は壁側にカメラを持って撮ると、画面のほとんどが横の壁と人物の大写しになり、臨場感を出すには良い場合もありますが、多くは誰がどこで何をしているかさっぱりわからない写真になりがちです。そのため特に意図が無いなら、片側が壁の場合は無理のない範囲でカメラを壁から離すほうが吉と出る場合が多いのです。RICOH THETA等の360度カメラでこの手の自撮りをする場合はご注意を。20180312b

180222a今年は寒いから松木沢の奥にある某滝が良く凍っているかもしれないので、すでに時期が遅いがとりあえず行ってみた。

松木沢をウメコバ沢の出会いよりさらに奥へ入るとなると、水位次第では渡るのが面倒な川があるのだが、例年と違って今回は全部氷の上を歩いて渡れた。ここでこんな遅い時期にこれだけ川が凍っているのは珍しいというか、私が知っている範囲では初めてだと思う。

平日だがここまで来る途中にはアイスクライミングのパーティも入っていて、手前の氷瀑までの道には結構立派なトレールが残っていた。ここの氷は例年二月も終盤になれば解け始めているので、それほど多くの人が入るわけではないのだが、今年は寒気が次々に来たからだいたい一週間から10日程度シーズン終わりが遅くなりそうで、皆喜んで飛んできているようである(笑)

凍った川と面倒な砂防ダムを越えてお目当ての滝がある沢の出合まで付くと、遠目に見える滝は思った以上にちゃんと氷瀑になっていた。
ここは登攀対象になっている他の松木沢沿いの氷瀑とは違って、日中は日の当たる場所にあるから例年なら良い氷は期待できない。見た感じ難度の点でも登攀対象として特に魅力はなさそうなわりに、手前に深い渕があって渡れないわ、最後にデカいチョックストンはあるわで、そもそもそこまで来るのがだいぶ面倒だし、そんなこんなでガイドブックにも載ってないわけで、たぶんほとんど登られていないと思う。私も今回登るほうはほぼ考えていなかった。

が、時間が余ったら手前の氷瀑で遊ぶつもりでギアは持っていた。そんな時に相手が見た感じで登れそうなレベルまで凍っているのを見ると、写真家の自分を押しのけてクライマーの自分が欲を出す。と言ういつものジレンマに陥るわけだ。

そんなわけで、いざ氷瀑の取付きまで出るとなると、手前の複数の渕を超えなければいけない。だが水量も多く完全凍結は期待できないだろうから、簡単には越えられないはずで、夏場は脇の面倒な尾根を巻いて懸垂下降で降りると何かで見た憶えがある。だが松木沢周辺の尾根は実は相当面倒な場所で、出来ればそれは避けたいのが本音だ。そこで「この冬ならうまくすると渡れないだろうか?」と欲を出した。

とりあえず夏なら浅い川床のはずの場所を恐る恐る歩いていくと、最初の深めの渕が出てくる。そこは向かって左側にだけ30cm程度の幅の通路のように細く雪が乗っていたのだが、その雪の上によく見ると穴が一つぽっかりと…

まあ見るからに先行者の踏み抜きかと… やはり同じことを考える物好きは他にもいたのである。しかしそこを通らないと上の渕にはいけないので覚悟してソロリソロリと踏み出すと、「行けた!」と思った瞬間ズブリ! 哀れ左足は膝まで水中に、本体は一緒に落ちないように咄嗟に手前に倒れて、太ったエビ(見たことないが)のようにズリズリと引き下がる…。

何年振りかで新調した”一流だが型遅れセール品のイターリア製冬季用登山靴の優秀な防水ジッパー” のおかげで、水没した左足はラッキーなことにソックスの上を少し濡らした程度で済んだ。
さてこの渕の左右は切れ落ちた壁なのでここをこのまま突破したければ、左の壁を”へつる”しかないのだが、足場はあるものの手で使えるホールドがあるかは未知数だ。夏場に確認した記憶はない、と言うか本当は忘れた。

出来れば雪の乗った不安定な足場のへつりはやりたくなかったので、自分が踏み抜いた氷の穴に試しにストックを突っ込んでみると全然底がない。同じ底がないでも、もうちょっと下にありそうなのと、全然なさそうなのとでは怖さが全然違う、これはたぶん後者だ、うんなんとなく。落ちるとマジでやばいパターンである。

それにそもそも、無理をしてここを超えても、まだもう一つ上の渕が通れるかも分からないわけで、もしここを抜けてしまって上がダメだったら、このへつりは戻れるのだろうか? すでにバンバン日が当たっているからどんどん状況は悪くなる。帰る頃にはへつりに至る部分の氷が緩んでたりして? もしかして「行きはよいよい帰りはなんとか…」のパターンではないかいな?

そう思って機材を背負った写真家の私は諦めて一旦下がったのだが、クライマーの私が目先の欲に勝てず引き返しへつりを決行、体は一つだから行動は欲望の強い方が勝つ。持論だが『クライマーは基本的に欲望に忠実な人達』なのである。

正味3mちょいかそこらの短いへつりを、三脚から登攀道具一式まで入ったザックを背負ったうえに、小型ミラーレスカメラ二台にレンズ四本が入ったカメラバッグをぶら下げたまま緊張して終える。一息ついて「フリークライマーで良かったぁ~」と心底思った次第。

ちなみに『フリークライミングは登山の基礎である』も私の持論だ。これを言うと歩き専門の人の反発を招きやすいのだが、別にフリークライマーが偉いとかそういう言う話ではない。たとえ二本足の歩きだろうと山である以上はバランスを崩しやすい場所や鎖場があったりする、滑りやすい場所なら標高、岩場、積雪等々関係無くそれこそどこにでもある。そんな落ちそうな場所で落ちない、こけそうな場所でこけないための技は、実はフリークライミングの中にすべてある。嗜んでおいて得はあっても損は無いと言うわけである。

※写真はちっこくて良くわからんと思うけど、へつった後上流側から。右の岩沿いの雪の手前の穴が先行者の踏み抜いた穴、奥は私の踏み抜いた穴。結局その上の岩の段に乗って壁沿いをへつった。

そんなわけだが、結局その上の渕は越えられそうもなくて、もう一回ここを戻って尾根からの迂回を試みる私であった。あったのだが…(以下お察し)

会津田代山登山道途中にある小さな湿原「小田代」(写真は昨年12月)、田代山頂上湿原(記事はこちら)から500mほどの場所にある。このときはガスが切れて晴れていた。太陽のすぐ右側奥の尾根に、チラッと白く見えているところが山頂の一部。

今回は全天球カメラ、RICOH THETA Sを雪山で使用してみて感じたこと。私は静止画でしか使用していないのでそれが前提で、前半はTHETA Sの使用感、後半は全天球カメラの注意点と可能性について。

露出
自動露出はよく練られた分割測光のようで雪山でも安定している。大抵の場合はそのままでも問題なさそう。

AWB
場の雰囲気を残せてかなり優秀だと思う。周囲を全て写し取るおかげで、逆に普通のカメラのAWBのように、ちょっとしたフレーミングの違いで結果が大きく異なる心配は、あまりしなくて済みそうだ。

しかし…
ここまでは記念撮影レベルでのお話し。夕景や雪山の日陰など、色温度設定の難しい条件で、真面目に記憶色を再現したいと考える人や、作画意図に合わせて画像をコントロールしたい人は、RAW記録の必要性を感じるだろう。

全天球カメラの場合、アウトドアでは高輝度の太陽から暗い日陰まで、周囲のすべてが一枚の画像に写り込むため、画面内の輝度差が大きく、JPEGからでは露出や色の軽い調整でも、調整可能な幅が通常画像よりも実感としてかなり狭い。また調整によっては画像の繋ぎ目に色がつき、浮き出てしまうこともある。先ごろのファームアップでHDRには対応したが、RAW記録にもぜひ対応して欲しい、次機種でもいいからこの点には強く期待したい。

操作性
Wi-Fiを使わないスタンドアロンの状態では全自動のみだから、操作性も何も無し、レリーズボタンを押すだけ。ツライチのレリーズボタンは素手向きで小さく、手袋をしたままではうまく押せない。位置もほぼ親指専用で、人差し指で押したい私にはかなり押しにくい。ケーブルレリーズが無いことが残念。

しかし…
スマホ等とWi-Fi接続しないと設定変更ができないのはやはり不便。デジタルガジェットとして外観デザインにこだわるのもいいが、バッテリー残量やメモリーの状態がいつでも一目で分かるインジケーターが本体にあるといいし、せめてmicroSDXCは使えるようにして欲しい。

外部機器との連携
・現状では基本スマホとしか連携できない。スマホだけでなくPC/Macでの操作やカスタマイズも可能にして欲しい。(Windowsタブレットも含む)

・スマホを使わずにボタンを押すだけの、ケーブル式かワイヤレスの単体レリーズが絶対に欲しい。簡易的でいいからタイマーレリーズやいわゆる 2秒レリーズ機能がついているとなおいい。スマホだけに頼る現状は非常に不便。そもそもスマホアプリのボタンは当然手探りでは位置がわからず、撮影者は常に位置を気にしているから、三脚に据えたり自撮り棒につけて自分も映り込む撮影では、撮影者が下を向いてスマホを凝視していたり、目が泳いでいたりと変な画になりがち(笑)。(※先日本体にセルフタイマー機能が追加されたので、このへんは少しだけ楽になりそう)

・パソコンとの有線接続は、簡単にストレージモードに切り替えられるようにしてほしい。ソフトを通すよりもオリジナルデータを目視で直に扱うほうがトラブルが少ない。ストレージモードで繋ぐことは現在でも可能だが裏技操作が必要でいちいち面倒。

・譲渡や廃棄の場合を考えて、本体のデータを確実に消去する手段をメーカーが提供するか案内したほうがいい。それが面倒ならやはりメモリーカード式にすれば話は簡単。

UI全般
またこれは最近のスマホやタブレットを意識したOSやアプリと同じ傾向だが、アプリもホームページもUIを簡略化しすぎて理解が難しい。このへんに、おもてなし精神が希薄な米国iT業界の影響を感じざるをえない。個人的に「マーケティングが海外志向すぎるのでは?」と思っている。

それと、TwetterかFacebookに登録していないと使えないシステムはダメ。世の中には私のようにSNS嫌いの人間が今も大勢いるので。

※私はけしてこうしたものに弱いわけではなく、前世紀からインターネットをフル活用しているような人ですが、SNSは情報収集にしか使わず、Twetterが「馬○発見器」と言われるようになる前から、いち早くその可能性に気づき、発見されないよう見るだけにしている。

これまで経験したトラブル等

○水平の問題
撮影時にカメラが傾いていたとき、傾きが記録されているので、本来ならビュアー側で補正されるはずなのだが、ある程度以上傾いていると補正しきれない場合があるようだ。公式サンプルにも同じように歪んだものが見られる。また、稀に補正そのものがされない場合もある。

○Wi-Fi
登山途中でWi-Fiがうまく繋がらなくて、リモートレリーズができないときがあった。おそらく周囲数キロにわたって誰もいなかったはずで電波干渉は考えられないし、低温のせいかと思ったが、もっと寒い山頂ではスムーズに繋がったので原因は不明。

○充電
モバイルバッテリーと相性があるらしく、まったく充電できないものもある。よくあるアンペアの問題とも違うようで、充電開始のタイミングに癖があるのかもしれない。旅行等に持って行く前には手持ちのバッテリーとケーブルで事前にテストをしたほうがいい。

○ケース

2THETA Sの付属ケース(シース)は、冗談みたいだがサイズが小さくて本体が入らない。ネット上のレビューでは他ユーザーも同じようで、今の所は別のものが必須だが、市販品の大抵はデザイン優先で、レンズをしっかり保護し、不用意に本体が抜けないが、取り出したいときには簡単に取り出せるという、アウトドアでの使用に耐えそうなものはほぼ見当たらない。今の所100円ショップでも見かけるネオプレイン風の小物ポーチが使い易い。

○PCサイト
現状のtheta360.comはとてもわかりにくい。先にも書いたがデザイン重視で理解しにくく、リンクをたどってでは必要なサポート情報にたどり着けなかったため、Googleで検索したらあっさり出てきた。これも最近の米国メーカーのサポートサイトなどでよくある現象。悪いところまで真似しちゃいけない。

総評と今後の期待
THETAシリーズは画質が向上したSの登場で、旧型までの「新しい玩具」的な立ち位置から、今後は新ジャンルの表現ツールとして、またすでにあるように不動産のバーチャル内見のような産業用途に至るまで、ユーザー先行で進化していくと思う。

最近続々と発表されている競合製品と比べても、「携帯性」と「手持ちで撮り易い」という点で、山岳用途には抜きん出た存在だ。それだけにレリーズが無い、まともなケースが無いなど、残念な部分は早急に改善してほしい。

全天球カメラがまだニッチなツールである以上、メーカーがそうした尖ったユーザーの要望に、いかに丁寧に対応できるかが、競合製品との競争に勝てるかどうかの鍵だ。この点はアクションカムの出だしの頃に似ている。なぜ既存の大手メーカーではなく、GoProがスタンダード化したのかを考えれば今後の道標になると思う。メーカーの努力に期待している。

風景の視点選びと撮影のコツ
写真撮影からフレーミングを無くすということは、ときに写真家の存在意義を毀損しかねない困ったことでもあるのだが、それだけに場の雰囲気をそのまま素直に伝えるには、これ以上のものは今のところ他に無いだろう。

しかし実際に使うと、どこで撮るか? どの高さで撮るか? の違いで、得られる画が下手なフレーミングの違いよりも大きく変わることがわかる。この点で特に自然撮影では写真家の存在意義はこのカメラでも大きい。
遠くの被写体を狭い範囲に作為的に切り取る通常の風景写真では、視点の高さの僅かな変化は、写真を見る側にとっては、あまり意識されない一要素にすぎないが、写真の構成要素がほとんど「視点の場所と高さ」しかない全天球カメラでは、この高さの僅かな違いが全体の印象を大きく左右する。

実際の撮影で注意する点としては、たとえ風景でも見晴らしを良くしようとカメラの位置を頭よりあまり高く上げすぎると、不自然な画像になりやすい。一般的にはやはり人間の視点の高さから大きく離れないほうが、見る側に違和感を感じさせないで済むようだ。

かといって、山岳風景の場合は視点が人間の背丈程度に低いと、どうしても山が上すぼまりになって、肉眼で見るよりも、大きさや山と山の重なりなどがわかりにくくなる。(例:ウメコバ沢の一枚目)この点を根本的に解決するには、向かいの山に登るとか超長い一脚にでも付けるか、はてはドローンで飛ばすとか、物理的に視点を高くする以外に方法は無いかもしれない。ただこれにも視点が高い空間に浮くという違和感がつきまとう。

これがもし風景写真の主流になってしまえばわからないが、そうで無い今は見る側にとっては「空撮」の印象になってしまうだろう。そもそもドローンが思い切り写り込んでしまうし、下には何もない。「地に足がつかない」感覚を、見る側がどう受けとるかは、現状ではまだ未知数な部分がある。

そうした特殊な手段を使わずに、地面に立ったままで、こうしたパースに関係する違和感を少しでも緩和する簡単で実用的な手段としては、少し離れたところに人や誰もが大きさを知っている物体を写しこむことだ。これにより見る側が全体の大きさや距離感を推察しやすくなり、写真から受ける不確定(もしくは不安定)な印象が薄くなるうえに、次に説明するように写真にリアリティを生む。

そのままではリアリティが薄い
全天球カメラを使って、あらためてわかったことがある。
これまでの風景写真では、画面から撮影者の存在は可能なかぎり排除されてきた。しかし実際には、見る側に常識的に「撮影者の視点で撮られている」という前提があったことで、写真そのもののリアリティが補完されていた。

つまりその場所を選び切り取ったのが人間であり、画面の外には撮影者がいると誰もがわかっているから、写真から受ける印象も実際に写っている以上に現実的=リアルに感じるということだ。もう少し簡単に言い換えれば、そこに撮影者の作為があると見る側も承知していることが、写真から生々しさを感じる結果になっていた。

全天球カメラの画像は、従来の写真と比べた場合、フレーミングという大きな作為が無いため、人が陰に隠れて写り込んでいない場合は、見る側にとっての視点は限りなくいわゆる”神の視点”に近づく、そのせいか画面に人や動物のような、生きて動いているものの一切入っていない画像は、リアリティが奇妙なほど薄い。

たとえ生き生きした緑が写っていたとしても、ゴーストタウンを見ているような感覚に陥ることさえある。ところが画面に人(たとえ頭のてっぺんだけでも)が入ることで、同じ風景でも急にリアリティが生まれる。

昨今、巷で全天球カメラを使う人で、一生懸命自分が映らないように影に隠れている人をたまに見かけるが、もし特別な意味が無いのなら、そう無理をしないでいいと思う。むしろ普段は積極的に写りこんだほうがいい。私みたいに写真家なのに撮られるのが苦手な人にはこれは困ったものだけど(笑)。

地味だが非常に大きな革命
こうした意味で、全天球カメラによる風景写真は、撮影者の存在を可能なかぎり排除してきたこれまでの風景写真とはまったく異なり、撮影者が積極的に風景の一部になることが望ましい、常識を変える写真なのかもしれない。

(2016 7月追記: 先日のファームアップでTHETA SがケーブルスイッチCA-3に対応、さすがRICOH。)
 

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