#11

身近な秘境の自然やらクライミングやら音楽やら映画やら諸々を書くと思います。

1月の終わり、ジョン・ウェットンが癌で亡くなった。2ヶ月前にはグレッグ・レイクも同じく癌でこの世を去っている。イギリスのプログレッシブロックを代表するボーカリスト兼ベーシストの二人が相次いで亡くなったことになる。 初めはたぶん中学生の頃だから、二人ともおそらく私が一番長い時間、その声を聞いてきたボーカリストだと思う。


Gleg Lake(King Crimson)


John Wetton(King Crimson)

二人は奇しくも同じバンド、キングクリムゾンのボーカリストとして世界的な名声を得た。グレッグはメジャーデビュー初期のボーカリスト。ジョンはグレッグが脱退したのち、再結成時のボーカリスト。面白いことに、そのずっと後にジョンがASIAから脱退した時の助っ人はグレッグだった。マネージメントの都合は大きかったはずだが、それだけプログレッシブロックの世界でボーカリスト兼ベーシストの大物といえば、この二人が筆頭だった。


Greg Lake(EL&P)

グレッグ・レイクはキングクリムゾンの鬼才ギタリスト、ロバート・フリップと同じギター教室でギターを学んだと言われている。バンド初期のボーカルが抜けたときフリップに誘われ、ボーカル兼ギター/ベーシストとしてキングクリムゾンに参加し、ロックの名盤といえば必ず登場する「クリムゾンキングの宮殿」と他一枚を残す。脱退後に結成したエマーソン・レイク・アンド・パーマーはグレッグをさらなる世界的ビッグネームへと押し上げた、バンドアンサンブルでのボーカルとベースに加え、アコースティックギターによる弾き語りの評価が高く、ソロ歌手としても「I Believe In Father Christmas」が英国シングルチャートで2位を記録し、その後も大物ミュージシャンがこの曲をカバーしている。

対するジョン・ウェットンは、何度か再結成を繰り返したKing Crimsonの最初の再結成時に、ロバート・フリップの大学時代のギグ仲間だった縁で加入する。透明と評されたグレッグとは対照的な甘くハスキーな声。そして太く激しいジョンのベースは、よりハードな路線に傾倒したクリムゾンにベストマッチで、「太陽と戦慄」「RED」などの名盤を残した。ジョンはそのボーカルと同様、ベースプレイの評価が高く、ベーシストとしてもロキシーミュージックやユーライアヒープ等のバンドを渡り歩いた。音は基本的にイギリスのロックベーシストらしい箱鳴りの強いゴリゴリとした野太い音だが、バンドのカラーや曲調によってピックと指弾き、歪み具合を使い分ける他のプログレベーシストにはあまり見られない繊細さもあった。

さらにいえば、日本人同様リズムがイマイチと言われがちな当時のイギリス人ミュージシャンの中で、安定したリズムを作れる珍しい存在でもあり、前期UKやハウ期のASIAのようにギタリストがパワーコードのリフをまったく弾かないバンドや、後期UKのようにそもそもギタリストがいないバンドでは、ジョンの歪んだベースがリズムギターばりの役割も担っていた。


John Wetton(UK)

Yesのクリス・スクワイア、EL&Pのキース・エマーソン、そして同じくEL&Pのグレッグ・レイクが亡くなり、今回のジョン。この一年でプログレッシブロック黄金期メジャーバンドのメンバーが立て続けに亡くなってしまった。

60年代終盤から70年代前半にかけて大ブームとなったプログレッシブロックは、70年代中頃を越えると急速に衰退していく、ときにオーケストラと共演したり、どんどん曲が長く難解になっていくアカデミックな匂いが鼻についた人も多かったのか、並のアマチュアバンドではコピー演奏ができない。曲が長すぎてラジオ番組でかけにくい。という普及面での困った問題もあり、近い時期に活躍したレッド・ツェッペリンやディープ・パープルのハードロック勢のようなわかりやすさにも欠けていたプログレ勢は、パンクミュージックやエレクトリック・ポップをはじめとする演奏技術に頼らないニュー・ウェーブ勢の台頭とともに低迷期に入る。

しかし80年代に入ると、かつてのプログレミュージシャンたちの逆襲が始まる。70年代のテクニカルで重厚壮大な音楽から、高い音楽性を失わないまま、ハードロックやヘビーメタルよりさらに聴きやすいポップミュージックへの転換。その中でも大きな成功を収めたのが再結成したYesとあのASIAだ。


John Wetton(ASIA)

スティーブ・ハウ(元Yes)、カール・パーマー(元EL&P)、ジョン・ウェットン(元キングクリムゾン)、ジェフリー・ダウンズ(元Yes/バグルス) プログレ黄金期(ジェフだけちょっと世代がずれているが、音楽的にはそれが功を奏した)の大物バンドのメンバーが集まったスーパーバンドという触れ込みで発売されたアルバムは見事に世界中で大ヒットした。
これは、その15年以上も後に製作されたアメリカの悪趣味コメディアニメ「South Park」の中で、ジャイアン風味の悪ガキ”カートマン”が突然「Heat Of The Moment」を歌い出すことからも、どれだけヒットしたかを想像できるだろう。

83年12月、ASIAの初来日公演は日本武道館から全米に向けてテレビとラジオで生中継という、前代未聞の大事として企画された。日本側の放送は公演の間、国際衛星回線を他に使えなくなることで緊急の報道などへの影響があるとかで、キー局ではなくたしかTVKが担当した。このとき武道館の客席に私もいた。

福島県の田舎でジョンが抜けてグレッグが来ると新聞で見たときには、そりゃびっくらこいたもんだった。オリジナルバンドで聞きたいのは当然として、グレッグも大ファンであるEL&Pのボーカリストだったから、それはそれで嬉しいし、どう反応したものか困惑したのを覚えている。当時は一大イベント前の突然のメンバーチェンジで、バンドはいち早く来日し公演まで三週間程にも及ぶ合宿リハーサルを行った、しかしグレッグは本番までに歌詞を憶えきれず、喉の調子も今ひとつで、足元のプロンプターで歌詞を見ながらの少しぎこちない演奏だったが、孤高のギター仙人、スティーブ・ハウ師匠を含め、ヒーローたちを前にした感動は大きかった。(ちなみにTV放送では「The Heat Goes On」がオープニングになっているが、実際は2曲目で、本当のオープニングは「Time Again」だった。)

グレックの歌はあの時と再結成EL&Pの公演で聴けたが、思えば中学の頃からあれほど長く親しんだジョンの生歌は結局聴けなかった。その声にあまりに長く親しみすぎて、いつも当たり前に存在する人のような気がしていたのかもしれない。今考えればまだ機会はあるだろうと、なんとなくたかをくくっていた部分があるような気もする。
「会いたい人には会える時に会っておかないと後悔する。」というのは学生時代に写真家木原和人氏が亡くなったとき、先に行われた作品展に意地を張って行かなかったことを後悔して思ったことで、実際その後はかなり実践してきたのだが、どうやら私はまた一つ後悔を残してしまったようだ。 ちなみにその合同展のメンバーだったU野さんとは、数年前に偶然共通の知人のパーティーでお会いして隣で酒を飲んだ、U野さんはすでにバッチリ出来上がっていて覚えていないと思いますが^^;)。 自分でチャンスを潰して永遠に会えなくなることもあれば、たまたま偶然に会えることもある。長く生きていると巡り合わせがいろいろあるものだが、会いたい人にはやはり会えるときに会っておくほうがいい。

当たり前の話なのだが、どんなスターでも、どんなに才能豊かでも、人生は有限なのだと、あたらめて実感した。
R.I.P.


(曲はおそらく有名なジャズスタンダード”How High The Moon”)

DSC0837豪州牛の赤身でもこれだけ油が出てくる。ちなみに内臓ストロボ光をアルミホイルで曲げて壁バンしただけ。もう少しでグロになるギリギリのシズル感?

お久しぶりでござんす。夏場いわき市に行ってきたり、先日は相変わらず足尾に入ったりとそこそこ書けることはあるのですが、まとめるのが大変なのでそのうちに…。
で本日のお題。昨今クライマーといえば、世代によって頭に思い浮かぶイメージがずいぶん違うはず。たぶん60代後半~70代くらいの人は小太りで髭面の小さなオッさんとかを想像するかもしれませんが、いまの優秀なクライマーは、みんな吹けば飛びそうなぐらいヒョロヒョロに痩せている。

筋骨隆々に見えても、良く見れば筋肉が付いているのはほぼ肩と背中だけで、女子の場合はかなり筋肉がついてみえるけど、それも基本的には肩と背面中心。

最近はフリークライマーに限らず、アルパインクライマー(山の壁を登るいわゆる”登山家”)もトップクラスはフリーでも高レベルだから、同じく痩せている。人工壁を登ろうが、山の壁を登ろうが、それこそ歩く山だろうが、登るという行為は常に重力に逆らうんだから、体が軽いほうが有利なのは当たり前なのであります。

ついでに言うと、アルパインクライマーの中でもヒマラヤなどの高所が舞台の高所クライマーも、あるだけで酸素を無駄に消費する肉は少ないほうが有利として、遠征前は激しいクライミングをやめて筋肉を落とす人もいる。
「寒いんだから脂肪が多いほうが…」と考えるのは、昨今のスピードイコール安全の運動量の多い速攻登山に限っては間違いで、脂肪は余計な重りと考えるのが普通。運動の燃料に脂肪をつけるマラソンランナーがいないのと似たような感じか。

そういうわけで、現役のクライマーたちは日々体重維持や減量に涙ぐましい努力をしてるのである。ワールドカップ優勝でおなじみ、世界的コンペクライマーの安間佐千氏、過去日本人最強のアルパインクライマー山野井泰史氏、両氏ともベスト体重はたしか50kg台だったはずだ。

元祖世界最強日本人フリークライマー平山ユージ氏は、例外的に体重が重い事で知られたが、それでも一番重かった頃で70kg程度だったと思う。私個人は、高レベルを狙うクライマーは、身長が何mあろうと体重は60kg台までがベストだろうと考えてる。クライマーにとって体重が重くて良い事はまったくない。万年70kg台だった私はずっと故障に泣かされた。

そういえばもう10数年以上前の話になるが、今やベテランのトップフリークライマーW氏がまだ高校生だった頃、当時各牛丼チェーンから次々に登場していた豚丼が結構うまいという話を取材の合間にしたら、彼は開口一番こう言った。

「それ、脂ありますか?」

食いたい盛りの男子高校生でもこれである。フリークライマーにとって肉と言えば、味どうの以前に脂が少ないかどうかの方が、はるかに気になるのである。

そこからさらに昔に遡ることかなり前、まだ自然の岩でコンペを行っていた頃、選手の宿舎になった宿が、「スポーツマンなら肉が好きだろう」と考えたのか、気を利かせて肉メインの料理を出したところみんな残した。なんて逸話もあった。
当時の世間一般の常識と、フリークライマーの常識があまりにもかけ離れていたが故の事故だった。ちなみに最近は炭水化物の摂取をコントロールしつつ(本番前とトレーニング期では摂り方が違う)、肉類をガッツリ食べる人も結構いるから、当時みたいに極端なことにはならないと思う。

そうは言っても、減量期など無駄な油の使用を減らしたい時はやっぱりある。そんなクライマーの端くれの端っこからすでに転げ落ちてしまったオジさんである私が、同じく減量に悩む世間の皆さんに、オレ流の「油を使わない”肉と野菜の炒め物”」の調理法を伝授しちゃるべ。(まあなんと長い前フリだ。)

まずは当然、焦げ付かない加工のフライパン、そして必ず蓋を用意。ガラスで中が見える蓋ならベスト。薄い肉をフライパンにそこそこ丁寧に敷き、火は可能なかぎりの弱火、←これ重要。そして蓋をして待つ。とにかく待つ。じっと待つ。すると、もともと肉の中にある脂が熱で溶けて油として滲み出てくる。普通、肉ならばよほどの赤身でもこうすると油が出てくるものだ、これが普通の火加減だったら焦げ付いてしまうだろう。

後は肉厚と出てきた油の量に応じて火加減を調節しながら焼き、熱を回すために蓋をして火が通るのを待つ。すき焼き用の薄切り肉であればさして時間はかからないし、肉が硬くなるとか縮むとかもあまり気にしなくていい。てか細かいことは気にするな、デブるのとどっちがマシだ、よく噛みゃいいじゃないか(笑)。

そして火が通ったら野菜を投入。しつこいようだが肉が硬くなるのがどうしても嫌なら、火が通ったところで脇にあげておくのだ。野菜を炒める火かげんは、肉から出てきた油の量次第だが、焦げ付きそうに見えたら少し塩を振る。わずかな塩をふるだけで、浸透圧で野菜から水分が出て、焦げ付かないで火が通る。事実上の蒸し焼きだから当然はじめは蓋をしよう。水が多すぎると本当の蒸し焼きになって、炒め物のパリパリ感が完全に無くなってしまうから、もし野菜から水が出すぎたら捨てるか蓋を開けて飛ばしてしまう。可能であれば後半は少し火を強めにするといい感じに仕上がることが多い。

ちなみに、私はやらないが塩の代わりに実は砂糖でもいいらしい、どちらにしても、量は後の味付けを考慮して決めるといい。

以前は私も、少量の水を足して半ば蒸し焼きにしていたのだが、パリパリ感がなくなるのが嫌で、水を減らす方策はないか?と考えてたら、好物のすき焼きを作るときに、野菜から大量の水が出てきて割下が薄くなって困ったことを思い出して、この方法に行き着いた。世の中何が役に立つか本当にわからないものだぴょんでござるだっぺ。

3他にやってる人がいるかは知りませんが、この結び方は知識として紹介しておきましょう。バックルが割れたり無くしたときにも使えるでしょう。緩んだりすっぽ抜けないように結ぶにはそれなりに慣れが必要で、推奨はしませんが、もしやりたい方はくれぐれも自己責任で、これでカメラを落としても私は一切関知しませんのでそのへんよろしく。

簡単に言えば、テープ結び(リングベンド)で、カメラの吊り環に直接テープを結んでしまう。テープがしっかり結べる素材で、結び目の緩みをチェックする習慣さえつければ固定は強力。ただし長さは調節できないが、これはネット界隈で俗に言われる三重折の「プロ結び」と同様。

テープ結びは平たいテープ同士を連結するときに使う結び方で、クライミングでは主に一本のクライミング用テープの両端を結んでテープスリングと呼ばれる輪を作る時に使われる。昨今はソウンスリング(テープをミシンで縫って連結した輪)が主流なので、若いスポーツクライマーにはこの結び方を知らない人もたまに存在するが、山ではダブルフィッシャーマンズノットやプルージックなどと同様に、知っていないとまずい基本的な結び方の一つと言える。

この結び方は表面に十分な摩擦力がある素材でできたテープで使えるが、一応注意だけしておくと、ダイニーマ(スペクトラ繊維)のように使ってはいけない素材も存在する。メリットは結び方が非常にシンプルで、カメラをバッグに仕舞ったときに、硬いバックルがカメラやレンズを擦ることが無い。バックルの破断を心配する必要がまったく無い。ベストの状態であれば固定が非常に強固なことなど。

おまけでもう一つ応用編。

2この二本のテープを一つのリングベンドで結ぶことで連結してしまう。カメラ側のテープが痛んだら、そちらだけ交換できる。

二本の別々のテープを一つの結び目で連結した結び方。キヤノンのEOSのように吊り金具の折り返し部分でストラップのテープが痛みやすいカメラの場合、この結び方だとカメラ側のテープが痛んできたら、そのテープだけを交換できる。

テープは強く結べばそれだけでそれなりに痛むからどちらにしろ寿命はあるのだが、ストラップのテープを直接結ぶよりは長く使えるような気がする。

1デメリットとしては、三本のテープを結ぶので、結び目が大きくなることがあげられる。他にも少しでも緩んでいると解けやすいはずなので、最初に結び目を入念にしっかりと締めて、その後も使いながら締まり具合を確認したほうが良い。滑りやすいテープでは結べても滑って抜ける可能性がある、硬いテープでは結目がしっかり締まらず抜ける可能性がある。ストラップ側テープを内側に通すのか、外側に通すのかで強度が変わるかもしれない。などなどを正しく理解して使うかどうかを決める必要がある。

三枚目の写真はそのバリエーションで、カメラの吊り環側、三枚重ねのテープの真ん中に、ストラップ側テープの末端が挟まれてブラブラしない結び方。この結び方は実は結構難しいうえに強度も何とも言えないが、もし人間がぶら下がるならこれは絶対に使わないが、カメラなら使うといった感じだろうか(そもそもカメラ用テープじゃそこまで強く無いわけだが)。もしやるとしてもテープ結び(別名:リングベンド、テープヒッチ、テープノット、ふじ結び、等)を検索して、よく研究したほうがいい。通常のテープ結びでもそうだが、この結び方の末端(端で余ったテープ)は長めにとっておくこと。私はテープ結びでもバックルを使う場合でも、余った末端を熱収縮チューブを使ってまとめている(ただし収縮固定はしない、増し締めができるし)。

4ぶら下げるとこんな感じ。少し腹が出て見えるかもしれないが、食べ過ぎたのは最近続いたストレスのせいなので、ストレスを減らすために寿司を食べたからもう大丈夫だ。

ちなみに、私が近年愛用しているARTISAN&ARTISTの長さが自由に変えられるストラップ(Easy Slider ACAM-E38)は、テープ部分がとても短いので、カメラ直付けではテープ結びができず、二番目に紹介した連結法で結んでいる(もうちょっと長くならんかね、これ)。

もひとつちなみに、私は自分で結んだこの結び方なら、たとえライカであろうとも、ストラップを持ってハンマー投げの要領で振り回せる度胸があるが、普通のバックル式だったら絶対やれない。(あるのは度胸で強度とは言ってないぞ〜)


会津田代山登山道途中にある小さな湿原「小田代」(写真は昨年12月)、田代山頂上湿原(記事はこちら)から500mほどの場所にある。このときはガスが切れて晴れていた。太陽のすぐ右側奥の尾根に、チラッと白く見えているところが山頂の一部。

今回は全天球カメラ、RICOH THETA Sを雪山で使用してみて感じたこと。私は静止画でしか使用していないのでそれが前提で、前半はTHETA Sの使用感、後半は全天球カメラの注意点と可能性について。

露出
自動露出はよく練られた分割測光のようで雪山でも安定している。大抵の場合はそのままでも問題なさそう。

AWB
場の雰囲気を残せてかなり優秀だと思う。周囲を全て写し取るおかげで、逆に普通のカメラのAWBのように、ちょっとしたフレーミングの違いで結果が大きく異なる心配は、あまりしなくて済みそうだ。

しかし…
ここまでは記念撮影レベルでのお話し。夕景や雪山の日陰など、色温度設定の難しい条件で、真面目に記憶色を再現したいと考える人や、作画意図に合わせて画像をコントロールしたい人は、RAW記録の必要性を感じるだろう。

全天球カメラの場合、アウトドアでは高輝度の太陽から暗い日陰まで、周囲のすべてが一枚の画像に写り込むため、画面内の輝度差が大きく、JPEGからでは露出や色の軽い調整でも、調整可能な幅が通常画像よりも実感としてかなり狭い。また調整によっては画像の繋ぎ目に色がつき、浮き出てしまうこともある。先ごろのファームアップでHDRには対応したが、RAW記録にもぜひ対応して欲しい、次機種でもいいからこの点には強く期待したい。

操作性
Wi-Fiを使わないスタンドアロンの状態では全自動のみだから、操作性も何も無し、レリーズボタンを押すだけ。ツライチのレリーズボタンは素手向きで小さく、手袋をしたままではうまく押せない。位置もほぼ親指専用で、人差し指で押したい私にはかなり押しにくい。ケーブルレリーズが無いことが残念。

しかし…
スマホ等とWi-Fi接続しないと設定変更ができないのはやはり不便。デジタルガジェットとして外観デザインにこだわるのもいいが、バッテリー残量やメモリーの状態がいつでも一目で分かるインジケーターが本体にあるといいし、せめてmicroSDXCは使えるようにして欲しい。

外部機器との連携
・現状では基本スマホとしか連携できない。スマホだけでなくPC/Macでの操作やカスタマイズも可能にして欲しい。(Windowsタブレットも含む)

・スマホを使わずにボタンを押すだけの、ケーブル式かワイヤレスの単体レリーズが絶対に欲しい。簡易的でいいからタイマーレリーズやいわゆる 2秒レリーズ機能がついているとなおいい。スマホだけに頼る現状は非常に不便。そもそもスマホアプリのボタンは当然手探りでは位置がわからず、撮影者は常に位置を気にしているから、三脚に据えたり自撮り棒につけて自分も映り込む撮影では、撮影者が下を向いてスマホを凝視していたり、目が泳いでいたりと変な画になりがち(笑)。(※先日本体にセルフタイマー機能が追加されたので、このへんは少しだけ楽になりそう)

・パソコンとの有線接続は、簡単にストレージモードに切り替えられるようにしてほしい。ソフトを通すよりもオリジナルデータを目視で直に扱うほうがトラブルが少ない。ストレージモードで繋ぐことは現在でも可能だが裏技操作が必要でいちいち面倒。

・譲渡や廃棄の場合を考えて、本体のデータを確実に消去する手段をメーカーが提供するか案内したほうがいい。それが面倒ならやはりメモリーカード式にすれば話は簡単。

UI全般
またこれは最近のスマホやタブレットを意識したOSやアプリと同じ傾向だが、アプリもホームページもUIを簡略化しすぎて理解が難しい。このへんに、おもてなし精神が希薄な米国iT業界の影響を感じざるをえない。個人的に「マーケティングが海外志向すぎるのでは?」と思っている。

それと、TwetterかFacebookに登録していないと使えないシステムはダメ。世の中には私のようにSNS嫌いの人間が今も大勢いるので。

※私はけしてこうしたものに弱いわけではなく、前世紀からインターネットをフル活用しているような人ですが、SNSは情報収集にしか使わず、Twetterが「馬○発見器」と言われるようになる前から、いち早くその可能性に気づき、発見されないよう見るだけにしている。

これまで経験したトラブル等

○水平の問題
撮影時にカメラが傾いていたとき、傾きが記録されているので、本来ならビュアー側で補正されるはずなのだが、ある程度以上傾いていると補正しきれない場合があるようだ。公式サンプルにも同じように歪んだものが見られる。また、稀に補正そのものがされない場合もある。

○Wi-Fi
登山途中でWi-Fiがうまく繋がらなくて、リモートレリーズができないときがあった。おそらく周囲数キロにわたって誰もいなかったはずで電波干渉は考えられないし、低温のせいかと思ったが、もっと寒い山頂ではスムーズに繋がったので原因は不明。

○充電
モバイルバッテリーと相性があるらしく、まったく充電できないものもある。よくあるアンペアの問題とも違うようで、充電開始のタイミングに癖があるのかもしれない。旅行等に持って行く前には手持ちのバッテリーとケーブルで事前にテストをしたほうがいい。

○ケース

2THETA Sの付属ケース(シース)は、冗談みたいだがサイズが小さくて本体が入らない。ネット上のレビューでは他ユーザーも同じようで、今の所は別のものが必須だが、市販品の大抵はデザイン優先で、レンズをしっかり保護し、不用意に本体が抜けないが、取り出したいときには簡単に取り出せるという、アウトドアでの使用に耐えそうなものはほぼ見当たらない。今の所100円ショップでも見かけるネオプレイン風の小物ポーチが使い易い。

○PCサイト
現状のtheta360.comはとてもわかりにくい。先にも書いたがデザイン重視で理解しにくく、リンクをたどってでは必要なサポート情報にたどり着けなかったため、Googleで検索したらあっさり出てきた。これも最近の米国メーカーのサポートサイトなどでよくある現象。悪いところまで真似しちゃいけない。

総評と今後の期待
THETAシリーズは画質が向上したSの登場で、旧型までの「新しい玩具」的な立ち位置から、今後は新ジャンルの表現ツールとして、またすでにあるように不動産のバーチャル内見のような産業用途に至るまで、ユーザー先行で進化していくと思う。

最近続々と発表されている競合製品と比べても、「携帯性」と「手持ちで撮り易い」という点で、山岳用途には抜きん出た存在だ。それだけにレリーズが無い、まともなケースが無いなど、残念な部分は早急に改善してほしい。

全天球カメラがまだニッチなツールである以上、メーカーがそうした尖ったユーザーの要望に、いかに丁寧に対応できるかが、競合製品との競争に勝てるかどうかの鍵だ。この点はアクションカムの出だしの頃に似ている。なぜ既存の大手メーカーではなく、GoProがスタンダード化したのかを考えれば今後の道標になると思う。メーカーの努力に期待している。

風景の視点選びと撮影のコツ
写真撮影からフレーミングを無くすということは、ときに写真家の存在意義を毀損しかねない困ったことでもあるのだが、それだけに場の雰囲気をそのまま素直に伝えるには、これ以上のものは今のところ他に無いだろう。

しかし実際に使うと、どこで撮るか? どの高さで撮るか? の違いで、得られる画が下手なフレーミングの違いよりも大きく変わることがわかる。この点で特に自然撮影では写真家の存在意義はこのカメラでも大きい。
遠くの被写体を狭い範囲に作為的に切り取る通常の風景写真では、視点の高さの僅かな変化は、写真を見る側にとっては、あまり意識されない一要素にすぎないが、写真の構成要素がほとんど「視点の場所と高さ」しかない全天球カメラでは、この高さの僅かな違いが全体の印象を大きく左右する。

実際の撮影で注意する点としては、たとえ風景でも見晴らしを良くしようとカメラの位置を頭よりあまり高く上げすぎると、不自然な画像になりやすい。一般的にはやはり人間の視点の高さから大きく離れないほうが、見る側に違和感を感じさせないで済むようだ。

かといって、山岳風景の場合は視点が人間の背丈程度に低いと、どうしても山が上すぼまりになって、肉眼で見るよりも、大きさや山と山の重なりなどがわかりにくくなる。(例:ウメコバ沢の一枚目)この点を根本的に解決するには、向かいの山に登るとか超長い一脚にでも付けるか、はてはドローンで飛ばすとか、物理的に視点を高くする以外に方法は無いかもしれない。ただこれにも視点が高い空間に浮くという違和感がつきまとう。

これがもし風景写真の主流になってしまえばわからないが、そうで無い今は見る側にとっては「空撮」の印象になってしまうだろう。そもそもドローンが思い切り写り込んでしまうし、下には何もない。「地に足がつかない」感覚を、見る側がどう受けとるかは、現状ではまだ未知数な部分がある。

そうした特殊な手段を使わずに、地面に立ったままで、こうしたパースに関係する違和感を少しでも緩和する簡単で実用的な手段としては、少し離れたところに人や誰もが大きさを知っている物体を写しこむことだ。これにより見る側が全体の大きさや距離感を推察しやすくなり、写真から受ける不確定(もしくは不安定)な印象が薄くなるうえに、次に説明するように写真にリアリティを生む。

そのままではリアリティが薄い
全天球カメラを使って、あらためてわかったことがある。
これまでの風景写真では、画面から撮影者の存在は可能なかぎり排除されてきた。しかし実際には、見る側に常識的に「撮影者の視点で撮られている」という前提があったことで、写真そのもののリアリティが補完されていた。

つまりその場所を選び切り取ったのが人間であり、画面の外には撮影者がいると誰もがわかっているから、写真から受ける印象も実際に写っている以上に現実的=リアルに感じるということだ。もう少し簡単に言い換えれば、そこに撮影者の作為があると見る側も承知していることが、写真から生々しさを感じる結果になっていた。

全天球カメラの画像は、従来の写真と比べた場合、フレーミングという大きな作為が無いため、人が陰に隠れて写り込んでいない場合は、見る側にとっての視点は限りなくいわゆる”神の視点”に近づく、そのせいか画面に人や動物のような、生きて動いているものの一切入っていない画像は、リアリティが奇妙なほど薄い。

たとえ生き生きした緑が写っていたとしても、ゴーストタウンを見ているような感覚に陥ることさえある。ところが画面に人(たとえ頭のてっぺんだけでも)が入ることで、同じ風景でも急にリアリティが生まれる。

昨今、巷で全天球カメラを使う人で、一生懸命自分が映らないように影に隠れている人をたまに見かけるが、もし特別な意味が無いのなら、そう無理をしないでいいと思う。むしろ普段は積極的に写りこんだほうがいい。私みたいに写真家なのに撮られるのが苦手な人にはこれは困ったものだけど(笑)。

地味だが非常に大きな革命
こうした意味で、全天球カメラによる風景写真は、撮影者の存在を可能なかぎり排除してきたこれまでの風景写真とはまったく異なり、撮影者が積極的に風景の一部になることが望ましい、常識を変える写真なのかもしれない。

(2016 7月追記: 先日のファームアップでTHETA SがケーブルスイッチCA-3に対応、さすがRICOH。)

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